第4回: “Employment-at-will” と解雇について
私が、長年アメリカでの人事管理(HRM)コンサルティングに携わってきた中で、日本とアメリカの間で雇用に関して何が最も違うかという観点から見てみますと、私は、”Employment-at-will” の観念の存在なのではないかと思い至るようになりました。 “Employment-at-will” というのは、そのまま直訳してみますと、「(任意の)意志に基づく雇用」という訳語になりますが、これでは日本語としても何のことを言っているのか分かりません。 直訳ではなく、背景的説明を付け加えてみますと、「雇用主も雇用者もいつでも解雇したり、離職することが自由にできる雇用」というような意味になります。
つまり、日本と比べますと、企業における解雇や離職に対して、きわめて自由な裁量のもとに柔軟性を持たせているのが、アメリカの一般的な雇用形態であり、それを連邦または州のどちらの法律においても(基本的には)支持しているというのが、アメリカの雇用労働法に関する現実であるのです。 しかしながら、ここで当然、次のような質問が皆様方の中から発せられるのではないでしょうか:「それだったら、企業が従業員を解雇したときにどうして、訴訟問題になるようなケースがアメリカではこんなにも頻繁に生じるのだろうか?」と。 確かにこれは至極ごもっともな疑問点でありますので、本日はこの点についてご説明してまいります。
確かに皆様の会社の従業員ハンドブックやジョブ・ディスクリプション、あるいは、社員の採用を決定した際のオファー・レターなどは必ずといってよいほど、”Employment-at-will” の条項や但し書きなどを挿入しているはずです。 “Employment-at-will” の定義としてよく書かれているのは、”You are free to end you employment with Company ABC at any time, with our without reason. Likewise, Company ABC has the right to end your employment, or otherwise discipline, transfer, or demote you at any time, with or without reason.” というような類の記述です。
この記述に従えば、従業員は、理由のあるなしにかかわらず、いつでも会社を辞めることができる(これは通常そうなっていますね)のに対して、雇用主も同じく理由のあるなしにかかわらず、いつでも従業員を解雇することが出来ると書かれています。 さて、この雇用主に関しての記述は、そのようにして従業員を解雇した場合、問題がまったくないものなのでしょうか。 この記述を真に受けて、雇用主は、アメリカでは従業員をいつでも解雇することが本当にできるというのでしょうか。
答えは、“決してそうではない場合が例外として実にたくさん存在する”という返答に私としては、とりあえずは留めておきます。 つまり、解雇理由が、差別的であったり、容認できない不当なもの(英語では、これらを ”Wrongful Termination” といいます)であった場合には、解雇を受けた従業員から訴訟されるケースが現実として決して少なくありません。 この “Employment-at-will” に書かれてある記述(特に“理由のあるなしにかかわらず”という記述箇所)をそのまま鵜呑みにするわけにはとてもいきませんので、雇用主側は細心の注意を払わなければなりません。
ご存知とは思いますが、アメリカの雇用労働法では、連邦公民権法第七章(Civil Rights Act, Title Seven)をはじめとして、人種、性別、肌の色、宗教、出身国、年齢、妊娠、心身障害、軍隊経歴などを理由に差別をしたり、不当解雇をしたりすることを明確に禁じている法律がいくつも存在します。 もし、それら差別があって解雇がなされた場合には、即座に法律違反だとみなされ、解雇を受けた従業員は、それら雇用労働法を盾にとって会社を訴えることがよくあるわけです。 ですから、雇用主として、それら雇用労働法は、“Employment-at-will” よりもはるかに法的訴求性が強いのだという事実を理解し、十分わきまえておく必要があります。
ただし、それら法律に抵触しない、純粋に企業の業績不振から来るリストラやレイオフでは、この“Employment-at-will” が企業側に有効となる場合があります。 しかしそれでも雇用主としては、レイオフする従業員が40歳以上の人ばかりではないかとか、マイノリティ出身者が過半数いたのではなかったかとか、第三者から見て差別とみなされるような諸々の要因が少しでも(出来ればすべてを)排除されているように、注意や配慮を十分施し、記録を取り、維持しておくことが極めて重要な要件になってまいります。そして、誤っても、”Wrongful Termination” だというような印象を決して従業員に与えるようなことがあってはなりません。
アメリカは冒頭に述べましたように、“Employment-at-will” の国だということにはなってはいますが、人を解雇するのは、日本とは違った意味でやはり決して簡単なことではないのです。 同じ業界にある他のアメリカ企業を見ていますと、いともたやすく人を切っているような印象を受けることがあるかもしれませんが、現実は外から見ているのと内実とでは大きなギャップがあり、傍から見ていて簡単そうに見えるのは、真相を見ていないからだと思ってください。 そして他のアメリカ企業のように自社でも簡単に人切りが出来ないだろうかとお考えになること自体、危険な賭けのようなものになるとのご忠告をさせていただきます。
解雇の問題については、今後もいくつか特集を組んでみたいと思いますが、いったん訴訟問題にまで発展してしまったら、あとはもう弁護士に依頼を出すしか手はありません。 そのための弁護士費用や精神的な心労などは計り知れないものとなりますので、そうならないようにすることが何といっても先決です。 いったん訴訟になってしまったらもう遅過ぎますので、社内で予防的措置を日頃から講じておくことが特に大切です。 また、来月この続きをお話することにいたしましょう。
Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org
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