第15回:人的資源開発(HRD)について
今年の3月号で、「人的資源管理(HRM)とは何か?」というテーマでこのHRMトークに執筆いたしました。 今回は、HRMとの比較において、HRD、つまり人的資源開発(Human Resource Development)について書いてみたいと思います。 HRDは、HRMと比べてみますと、この頭文字も一般的にはそれほど使われてはいないようで、認識度はまだまだ低いのではないかという気がいたします。 しかしながら、企業の人材というのは、管理するだけではないのもまさしく自明の理で、いかにして人材の開発、すなわち人材を育成していくかという点も管理に負けず劣らずに、重要な課題であるということが云えます。
日本では、新卒の学生を春先に一斉採用し、入社前後に一定の新入社員研修を行いますが、アメリカにはそもそも新卒学生の一斉採用というような制度も慣習もありませんので、日本で一斉に行われる新入社員教育というものもあまり一般的ではないと云うことが出来ます。 アメリカでの社員の採用は、あくまでもポジションが空いたから、あるいはポジションが新たに設けられたからということで、そのポジションを埋めるために外部の人間を採用します。 あらかじめポジションには、ディスクリプションが作られていて、必要とするスキルセットや経験年数、さらに学歴や職務遂行に必要な資格といった記述が書かれてあります。
それらの記述に見合った人間が面接や身上調査を通じて通常採用されるはずですから、新卒者の採用とは違って、ほとんどゼロから新入社員研修を施すという意識も実体もアメリカの企業には存在しないということになります。 それでは、新入社員研修が一般的ではないアメリカでは、一体どのようにして社員教育を行い、人材の育成をしているのでしょうか。 その鍵は、専門職(スペシャリスト)としてのスキルの開発・育成と管理職としての能力開発・育成とに分かれていると云えます。 社内組織が専門職指向型であるアメリカの企業組織においては、専門職のスキルを高めることが企業にとっても社員にとっても非常に重要な要件であって、その教育にお金と時間とを投資します。
もうひとつは、管理職への教育です。 管理職というのは、企業組織にとっては本来社員を引っ張っていくリーダー格の人間ですから、それらリーダーが活性化し、十分な能力とスキルとを社内で持っていなければ、やはり組織を活性化し、業績を発展させていくことは出来ないわけです。 当然の帰結として、管理職の能力開発に企業は投資としてトレーニングを提供するわけです。 この辺の認識とコンセプトが、アメリカ企業と日系企業とにおきましては、微妙な価値判断の違いが随所で観察されますので、具体例を使って説明してみることにします。
例えば、社内で時間管理についてのトレーニングがあったとします。 恐らく時間管理のトレーニングは、日本であったらそれこそ新入社員研修の中で取り上げられ、教え込まれる内容かもしれません。 その時間管理を例えば管理職教育の中に入れて、トレーニング・プログラムを作ったとします。 そのような場合、日系企業の日本人担当者の方からは、管理職になぜいまさら、時間管理のトレーニングを提供しなければならないのだという疑問の声が必ず上がります。 時間管理がしっかり出来ている人物だから、管理職に昇格させているのだ、あるいは、管理職として採用したのだという認識が背後にはあるからです。 日本人担当者にとっては、時間管理のトレーニングと云うのは、ひとつしかないもので、新入社員も管理職者も時間管理として受けるトレーニングは同じものという概念が存在します。
ところが、管理職が受ける時間管理のトレーニングは、新入社員が受ける時間管理のトレーニングとは次元の違うもので、管理職には管理職としての、新入社員とはおよそ異なるレベルでの時間管理術というものがあるわけなのです。 それらは、放っておいても管理職が業務の中で自然に身に付けていけるものかといいますと、中にはそのような管理職の人もいるかもしれませんが、全部の管理職がそうだということには決してならないと思いますので、管理職の底上げを行う意味でも管理職への教育を企業として提供する必要性が当然出てくるわけです。
このようにアメリカ企業と日系企業とを比べてみますと、管理職での教育の差というところが最も大きな違いとなっているように私には観察できます。 その違いは、例えば3年、5年と月日が経過していくうちに管理職の力の差となって出てきます。 同じレベルで採用されたアメリカ人の管理職者が、アメリカ企業では管理職トレーニングを定期的に受けることによって、管理職としてのスキルと能力の開発がされますが、それらトレーニングを受けることのない日系企業に採用されたアメリカ人管理職は、3年前、あるいは5年前と比べてみても、能力やスキルの開発はほとんどなされていないといった大きなギャップが生じてくるのです。
ですから、人的資源開発(HRD)といった場合の最も重要な課題は、管理職者への能力開発であり、育成であると云うことがこのアメリカでは少なくとも云えるかと思います。 先日もアメリカ東海岸にあります、ダウ工業株の30種平均銘柄のひとつに名を連ねる大企業であります、メルク社の管理職ならびに専門職向けの社内セミナーを弊社で提供してきたばかりのところです。 もちろんメルクというアメリカでも第2位の医薬品メーカーだから、十分な内部資金を使ってそのようなトレーニングが出来るという事情は当然あるかと思われますが、それ以上に企業組織として管理職や専門職の能力開発を真剣に考え、それを企業発展の中核に据えている姿勢を強く感じました。 こうして、優良企業はますます社員の力を付けていくことで、さらなる成長を目指していると云うことを明確に意識することが出来た次第です。
Ken Sakai
President & CEO
kenfsakai@pacificdreams.org
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