「翻訳トーク」 2008年12月号のごあいさつ
経済危機の中で揺れに揺れ動いた激動の2008年の1年間を振り返る年の瀬のひと時が訪れてまいりました。リーマン・ブラザーズの破綻がきっかけとなった今年秋以降の世界同時進行的な景気後退の影響は、すべての方々に少なからぬ影響を及ぼした、そんな今年一年の締めくくりとなるものではないでしょうか。弊社パシフィック・ドリームスにおいても例外ではなく、1992年の創業以来もっとも大きな決断を行った年として、この2008年は、会社の歴史にひとつのエポックを残すことになりました。
それは、先月号の「翻訳トーク」臨時特別号で皆様方にお伝えいたしましたように、先月11月1日を持ちまして、パシフィック・ドリームスの翻訳・通訳部門を東京港区芝にあります(株)十印 に事業譲渡したということであります。 この譲渡によりまして、パシフィック・ドリームスの翻訳・通訳部門は、今後TOIN USAという組織に移行いたします。 現在は、TOIN USA Inc.をオレゴン州で登記するための準備作業過程でありますので、正式なオレゴンでのTOIN USA Inc. の発足は今のところ年明けの2009年1月からとなりそうです。
パシフィック・ドリームスから(株)十印への事業譲渡後におきましても、勤務しているスタッフならびにオフィスのロケーションも何ら変わりはございません。今回の譲渡によって、パシフィック・ドリームスが長年、アメリカと日本とで培ってまいりました翻訳・通訳事業の継承、ならびに今まで尽力してきたスタッフは一人も欠けることなく、会社の名前は変わっても続けていくことができた故であります。これは、このような実体経済にも過酷な影響が出始めている昨今におきましては、弊社のような小さな個人経営の企業にとりましては、特筆すべきことでありました。 このような事業譲渡という機会を与えてくださいました、(株)十印の経営陣の方々には、この場をお借りしまして深く感謝を申し上げる次第です。
業界が違いますので、皆様はご存知であるかどうかはわかりませんが、翻訳業界というのは、小さな個人経営や家族経営で成り立っている典型的なスモール・ビジネスの集合体で、それは日本もアメリカも業態に関しては大差ありません。翻訳と一言に申し上げましても、様々な言語の組み合わせ、専門分野があり、それらを統合して運営いくことは並大抵なことではありません。ですから、大手企業は簡単には参入できない業界でもあります。しかしながら、今年のような金融や実体経済に激震の走った年であれば、スモール・ビジネスの立場もいっそう弱いものになる宿命があります。
その意味では、スモール・ビジネスの集合体である翻訳業界でも企業間での再編や合併が今後日本でもアメリカでももっと起こってもおかしくないと思います。弊社と(株)十印はそのようなはしりというか、先陣を切ったのではないかと考えています。業界としての規模はまったく違いますが、半導体業界でも、現在再編や統合が進んだ半導体デバイスメーカーやシリコンメーカーに対して、半導体材料装置メーカーの数は、セミコンジャパンなどに参加してみますと、その割りに変わっていないのではないかという印象を抱きました。半導体材料装置メーカーの再編や統合もやはり今後、日米間の中で進展が出てくるような予感がいたします。
さて、経済ではろくなことがなかった2008年でしたが、2009年は一体どんな年になるのでしょうか。本格的な回復は2010年からだという論評が巷では多いように聞こえてきます。 麻生首相は、全治3年だと申していると聞いています。敢えてエコノミストではない私からの予測をこの場で申し上げれば、2009年第4四半期から景気ははっきりとした回復基調に向かうことを申し上げたいと存じます。 理由としては、やはり急激なグローバル化の浸透具合と今回の各企業の異常なまでに早い設備投資の凍結ならびに雇用削減のスピードです。以前のバブル期とは比べものにならないほどの速さで企業は矢継ぎ早やに次々と対応策を打ち出してきています。そのため、ここしばらくは、あらゆる場面で経済の収縮は起こるべくして起こるでありましょうが、そのトンネルが抜けてから景気は急速に回復に向かうというのが私の思い浮かべるところのシナリオであります。
このように書くと、酒井は企業から切られる人たちに対して血も涙もないような人間だとみられましたら、それは大きな心外であります。私が12月はじめにセミコン・ジャパンを見に行くために訪日した1週間は、東京・葛飾の実家で朝と夜にテレビをつければ、自動車メーカーから契約を打ち切られる非正社員の方々の取材が連日報道されていて、気が滅入る思いでありました。状況としては、アメリカでもまったく同じか、それ以上に厳しい企業からの措置がすでに取られているので、どちらがどうということはいえないのですが、日本でのマスコミの報道を見ていると明日は我が身ではないかとさえ、日本においては雇用関係のない私でさえ、焦心と不安に煽り立てられるような気がいたしました。
アメリカでのマスコミの報道をテレビや新聞で見ている限りでは、決してそのような焦燥感に駆り立てられることはないのです。これは一体どうしてなのだろうかと私自身長い間漠然と思っていたことだったのですが、“セーフティ・ネット”というキーワードにその解があるように思えます。 アメリカでは、日本企業とは違い、大手企業では特に正社員の削減の方を率先して進めています。それは、単純に言って正社員を削減できた方がコスト上の削減率が大きいからです。だからアメリカでは、この時期、正社員の方が自分の首がいつ切られるかと派遣社員以上にビクビクしています。
正社員の場合は、仮にレイオフとなっても会社からは場合によっては手厚い解職時一時金(英語では、“Severance Pay”と呼ばれ、日本の退職金とは性格がまったく異なります)が支払われ、すぐに州の労働局に出向いて失業保険の申請を行えば、8割程度の給与の支払いが次の仕事(同程度の報酬)が見つかるまで毎月補償されます。ただし、医療保険などの福利厚生はやはり解職とともにベネフィットの権利を失うことになりますので、それらの支払いは今後自己負担になります。(ですから、アメリカではまったく健康保険に入っていない人が4,600万人いるという統計が出てくるわけです。)
このような失業保険支給のベネフィットは、正社員や非正社員の区別なく支払い対象とされていますので、仕事を失ったからといっても即路頭に迷ったり、ホームレスになったりするというわけでもないのです。(もちろんもともと過大な借金を抱えていて、失業とともにホームレスになる人がいないわけではないのですが。)州政府や市からは、フードスタンプと呼ばれる食料購入券が低所得者層には毎月配布され、それでいちおう毎日三度の食事を家族に提供することができます。さらに慈善団体やキリスト教会では、“スープ・キッチン”と呼ばれる食事を毎日ホームレスの人たちに提供してくれる組織がほとんどの町には存在しています。
だからといって、レイオフされることを歓迎したり、期待する人は誰もいませんし、給料以上に医療保険の打ち切りに大きな不安を抱く人たちが多いというのもアメリカでの特徴かもしれません。それは、健康問題を抱えているアメリカの職業人口でいかに大きく占めているかという証左でもあるかもしれません。とにかく、アメリカでは、仕事を失った人たちへのセーフティ・ネット(ただし医療保険だけは別)がこのようにある程度は社会の中で完備してます。そのようなセーフティ・ネットが失業後、特に非正規社員であった方々にとって、日本の社会ではほとんど完備されていない(?)というところに、人々の不安と焦心とを駆り立てる要素が出揃い、社会全体でも必要以上の閉塞感にさいなまれてしまうという悪循環に陥ってしまう傾向がとりてて強いように私には感じられてなりませんでした。 このような悪循環を断ち切るような制度が日本には今一番必要とされているといえるのではないのでしょうか。
Ken Sakai President & CEO
kenfsakai@pacificdreams.org
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