Select your language English
o 翻訳トーク
o
o
o
o HRMトーク
o HRM書評

 

     
 

2009年4月号

「翻訳トーク」 2009年4月号のごあいさつ

今月、久し振りにシリコンバレーのあるサンノゼに行ってきました。 久し振りと書きましたのは、1年以上もサンノゼには行っていなかったからです。 かつて(今から10年近く前)は、毎月のようにサンノゼ詣でをしていた時期もあったのですが、全般的なシリコンバレーの地盤沈下とともに、お膝元の半導体産業の長期凋落化傾向にも歯止めがかからず、私どもとのビジネス・ボリュームも次第に先細りとなってしまっていたからでした。

イェール大学教授で、「大国の滅亡」の著者として歴史学の世界的権威であるポール・ケネディ博士が、ウォールストリート・ジャーナル紙に「企業は、もうシリコンバレーにいるべき時代ではない」という内容の記事を昨年寄稿し、波紋を投げかけています。 かつてのシリコンバレーは、世界的半導体企業の数々を生み出し、多くの革新的な新技術の発明や特許などを世に送り出してきました。 しかしながら、それらの強みも今は昔の短期的な強みでしかなかったと云うのが、ケネディ博士の主張であります。

なるほど、考えてみれば、世界最先端の半導体デバイスもいまやシリコンバレーでは製造されておらず、日本や台湾、そして韓国、アイルランドやイスラエルなどの地域や国々において製造されているのが現実です。 シリコンバレーで最先端デバイスが製造されずに、他の国々にその製造の中心がすでに移ってしまったのであれば、シリコンバレーの競争力、そして活力の源泉であるイノベーションの力や独創性は、相対的に弱まってしまったといわれても、反論するのは確かに難しいことではないかと思われます。

毎年4月1日になりますと、専門職のための非移民ビザであるH-1Bというビザの申請受付がいっせいに移民局で開始されます。 ここ3年ほどは、6万5千人の枠であるこのビザの定員数が開始日の1日で上限をはるか上回ってしまい、後はコンピュータによる自動くじ引きで先ずは定員数まで絞り込まれるという異常な事態が続いていました。 ところが今年は、受付開始日から1週間以上たっても、応募者数が定員の上限枠まで達していないという、逆の異常事態が発生しています。 現在、アメリカの失業率の増加に伴って、海外からH-1Bまでもサポートして人員を採用しようとする企業が激減しているのと、今までほど、世界中の優秀な人材はアメリカに働き口を求めて殺到するというような現象もすっかり影を潜めたしまたという2つの現象が背後にあることが憶測されます。

製造業が廃れてしまっても、ハードやソフトの開発設計(R & D)などでアメリカは、そして特にシリコンバレーではそれを糧にして生き延びていけばよいではないかという議論もあるにはあるのですが、やはり製造業と云うのは、従業員を雇用するというところから成り立っているところがあります。 ですからハードやソフトの開発エンジニアだけが主たる就業者でしかいなくなってしまった暁には、シリコンバレーは早晩、1930年代の大恐慌期に匹敵するような大失業者数がはじき出されてくる恐れがあります。

アメリカの西海岸、とりわけカリフォルニア州やオレゴン州は、就業人口に占める製造業の割合が高く、そのため今回の世界同時不況では、雇用の面では特に厳しい状況を強いられています。 先週発表されましたオレゴン州内の3月の失業率はなんと12.1%という60年ぶりという高失業率を記録しています。 この数字は、アメリカの中では、ワースト2位で、全米ワースト1位は、アメリカ自動車産業のお膝元であるデトロイトを抱えた、ミシガン州の12.6%だそうです。 またカリフォルニア州も11.2%で、ワースト4位に記録されています。(ちなみに3月の全米平均失業率は8.5%でした。)製造業の依存率が高い州ほど、失業率が高いという結果が如実に現れています。

全米平均を見ただけでも日本の失業率(2月の完全失業率は4.4%)の2倍近くにあることが分かります。 アメリカや日本の株式市場は、ようやくここにきて明らかに底を打ち、少しずつ回復局面に入ってきたことを告げています。 先ずは株式市場から動き出していくのが、今までの景気回復パターンでもありましたから、この世界同時不況にも回復のシナリオがわずかながらに胎動しつつあることがようやく表面に出てまいりました。 しかしながら、雇用面に関して言えば、企業のリストラはまだ緒についたばかりで、これからさらに失業率が上昇し続け、国内消費や内助拡大の動きをへし折る可能性が残念ながら大いにあります。

この世界同時不況に関する企業の対応を見てみますと、大まかに見て2つのタイプに分かれるようです。 ひとつは、正社員を含めて先に徹底的にリストラを行って組織をスリム化させるというタイプです。 もうひとつのタイプは、正社員の雇用だけは何としても死守し、その代わり、徹底的に今いる社員にトレーニングを徹底的に行う機会とするのと、R&Dへの拍車をかけるというものです。 どちらがよいかと云うのは、簡単にはいえませんが、少なくとも株式市場は、これらどちらのタイプのでもこのような明確な対策を採っている企業の銘柄には好感を示し、株価は上昇している模様です。

私が心配するのは、今回の世界同時不況の中で、株式市場が回復基調にあるとはいえ、先行きがまるで見えないことです。 昨年のノーベル経済学賞受賞のプリンストン大学のポール・クールグマン教授は、アメリカの今回の景気回復は10年以上かかるだろうなんてことをまことしやかに言い始めています。 かたやオバマ大統領は、回復の兆しが見て取れるということを先週あたりから記者会見時に言い放つようになりました。 しかしながら世間一般での認識としては、今回の不況からの脱出は、L字型回復だといわれていて、それがもっとも信憑性が高いように感じられます。

つまり、景気は、Lの字のごとく、垂直下降した後、底は打ったものの、いつまでも底から這い上がれないような状態が続くだろうというものです。 もしそのような状態が今後あと1年でも続くようであれば、社員教育を現在徹底的に行っている企業は、早晩、リストラに追い込まれる可能性が出てまいります。 未だに正社員を切らないほとんどの日本企業にとっては正念場を迎えることになるでしょう。 逆に回復の足取りがL字型ではなかった場合、それは、社員教育を行い、R&Dに資金投入を惜しまなかった企業に大きな飛躍のチャンスが訪れることでありましょう。 こればかりは、まさに神のみぞ知るというところでしょうか。 これによって、日米企業の今後の優勝劣敗にも大きなかかわりが生じてくるものとの予想ができます。


Ken Sakai
President & CEO
kenfsakai@pacificdreams.org

   

View Ken Sakai's profile on LinkedIn

twitter

Pacific Dreams Institute