「翻訳トーク」 2009年6月号のごあいさつ
6月の第1週にニューヨーク州、ニュージャージー州、さらにペンシルバニア州と云うアメリカ東部3州を1週間かけて久し振りに訪問しました。 ニューヨーク市への訪問は、実に6年ぶりのことで、マンハッタンのミッドタウンを思う存分闊歩してきました。 ニューヨークでは鉄道でニューワーク空港からペンステーションに着いたときからパラパラと雨が降り始め、歩き出すほどに雨脚が強くなりました。 仕方がないので、街角にあったウォールグリーン(全米にあるドラッグストアのチェーン店)で傘を買い求め、何とか凌ぎました。 ニューヨークは、まるで、日本の梅雨のような天候であり、湿度もありました。 オレゴン州は、年間を通じて降雨量が多いことで知られていますが、この6月の時期にこれほど毎日雨が降るようなことは私がオレゴンに来て過去20年間はありませんでしたので、ニューヨークの天候には、ちょっと驚かされました。
ニューヨークで働く人々はさすがに超一流の忙しさがあり、それでも人間ですから忙中暇ありというところもあって、1日の中で少しでも時間が空いているスポットがあれば、その日に内でも気さくに会ってくれるということを知りました。 しかも知っている人同士で気軽に紹介をしてくれて、電話をして時間が空いていれば会っていただけると云うことが分かりました。 これは、アメリカ西海岸にはない習慣で、面積の広いアメリカ西部の州では、遅くとも2,3日前までには、アポの約束をきちんと取っておかないと、西海岸の人はその日のうちで仮に空いている時間が本日午後からあるからというようなことでは、まず同じ日の内にアポをとらせてくれるようなことはありません。
ということで、ニューヨークでのアポは、訪問した先でのご紹介から2件もの新規訪問先を前もってアポを入れることなしで、その日に内に訪問することが出来たのは幸運でした。 ご存知のように、ニューヨークのマンハッタン島にあるミッドタウンは、碁盤の目になった理路整然とした街並みでありますので、ほとんどの地域は、徒歩で制覇することが出来ます。 徒歩で制覇するといっても、せいぜい30分圏内で行き着けるところばかりです。 確かに1日あたりにしたら1万歩をはるかに越えるものすごい歩数になっているはずなのですが、西海岸にいると普段あまり歩くことのない私にとっては、ニューヨークの街並みや多種多様な人々を観察しながら歩いて訪問先までいけると云うのは、何とも嬉しく、気持ちのよいことでもあります。
ニューヨークにある翻訳会社と日系企業様を何軒かご訪問しましたが、小規模な翻訳会社ほどここのところの経営状態は厳しいということを認識しました。 特に日本の急激な景気悪化で、日本語関係の翻訳ビジネスの需要も直撃を受けているようでして、日本語翻訳の需要がここ2、3ヶ月の間でかなり蒸発してしまったという話をニューヨークで見聞しました。 逆に日本とアメリカ、あるいは他の海外との間でのビジネスに直接関係しない、アメリカ国内における翻訳需要には、ほとんど影響は出ていないようで、むしろ、アメリカ国内翻訳ニーズを中心にビジネスを構築している翻訳会社は、会社の規模が小さくとも、成長路線を維持してあまりあることが分かりました。
特にスペイン語関係のアメリカ国内翻訳市場は昨年から今年にかけてもかなりのペースで高成長を続けているようで、アメリカ国内におけるスペイン語人口が確実に毎年増え続けているという事情が、各消費者向け企業に対してスペイン語翻訳の需要を作り続けているという好循環がそこにはある模様です。 ヨーロッパ言語の翻訳を中心に行っている翻訳会社の約8割は、スペイン語翻訳となっています。 中国語やヒンドゥー語などは、やはりこの世界的なリセッションの影響下で、期待が大きい反面、実際の需要は停滞しているようです。
翻訳の需要がスペイン語一極に傾いているこのアメリカ内における翻訳業界の流れからして、今後懸念が深まりますのは、経済のブロック化であり、保護主義政策の台頭であります。 民主党が絶対数を握っているアメリカの上院では、すでにバイ・アメリカ法案が5月に可決されています。 カナダを始め、ヨーロッパ諸国からは猛烈な反発の声がすでに出され始めています。 このような各国間における反発が世界的に広がれば、ただでさえマイナス成長の今年の世界経済は、貿易面でも多大な足の引っ張り合いになるのは必至の趨勢であり、さらなるマイナス成長の足かせが国際間での貿易取扱量全体に暗い影を落とすことになります。
このように世界貿易の絶対数が世界同時リセッションと各国から発せられる保護主義政策とがあいまって悪化の一途を辿るようであれば、世界の翻訳業界も多大な悪影響を被るのは、火を見るよりも明らかだと言わざるを得ません。 これからが期待される21世紀の「低炭素革命」の技術革新の瞭明期を目前にして、世界経済は回復期にいつまでも入れることができず、入り口付近でもたつくことになります。 アメリカの巨大な自動車産業がついに破綻した後に来るべき時代の新産業は、リニューアル・エネルギーを利用した様々な最新機器や送電システム(スマート・グリッド)であるはずなのですが、その全体像はまだ霧の中に隠れたままの状態です。 その全容を早急に世に指し示すことが政府機関や公益企業の最大の使命であるといえるのではないでしょうか。 もはや自国産業の保護や市場での競争力を失った企業の延命策などを声高に叫んでいるときではないと思います。
Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
TOIN USA Inc.
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