"In-Country Translator"
前回日本に出張している間に、東京にありますとある翻訳会社を訪問してお話をお聞きしたときのことです。 その会社では、ターゲットとなる言語の翻訳については必ず“ In-Country Translator ”、つまりその言語が母国語として使われている国に住む翻訳者に翻訳の依頼を原則出すというのがその会社のガイドラインであるということでした。
その意味で、弊社はアメリカにあって翻訳を行っている会社でありますので、日本語から英語への翻訳、すなわち英訳のお仕事はアメリカに住んでいる翻訳者を抱えている弊社のような会社にお仕事の依頼を出したいというご要望でありました。 確かにそれは、非常に理にかなったガイドラインであり、そのようなしっかりとした原則を貫いて、日々の翻訳オペレーションを行っているその翻訳会社は、立派な経営を行っている会社であるように私の目には映りました。
翻訳会社のクライアントが、翻訳を依頼してくる文書や資料について、それらをアメリカで使うということであれば、それは誠に正しい選択を行っているものと思いますが、英語の翻訳といっても、クライアントがイギリスにいる顧客向けであるのであれば、それはイギリスにいる翻訳者を使うべきだということになり、“ In-Country Translator ”の原則を厳密に押し通していこうとしてまいりますと、次第に困難な状況に陥ってまいります。 ご存知のように、英語と申し上げましても、オーストラリアやシンガポールの英語は、また少し違った癖みたいなものがありますので、厳密に言えば、翻訳のターゲットとなる国への英語であれば、それら英語の癖までを翻訳言語の違いとして十分反映させた成果物でなければならないからです。
しかしながら、日本での英訳依頼の 90% 以上は、特別な指定や要求がない限りは、アメリカ英語にする翻訳作業のことを意味するといって差し支えないのではないのでしょうか。 だからといって、アメリカで使われる英語がすべてグローバル・スタンダードであって、イギリスのQueen’s English は、もはやグローバル・スタンダードではないというようなことを申し上げているのではありません。 従いまして、弊社で依頼を受ける英訳作業はあくまでもアメリカ英語での翻訳でなり、イギリスやオーストラリアで毎日使われている英語とは違った綴りや言い回しによって翻訳が必然となされることになります。
現実的な翻訳ビジネスの世界を見てみますと、英語への翻訳は、当然のことながら「英語圏に住む人々への翻訳」として拡大解釈されてきている傾向が強いように思います。 その「英語圏に住む人々」の世界の多数派が今のところアメリカに住んでいることが多いので、やはり必然的に英語に何の注意書きも与えていなければ、アメリカ英語で英訳作業が進められてしまう確率が高いことになるわけです。
しかしながら、翻訳作業をさらにひとつレベルアップして、英語は母国語であっても、その国ごとの人々のテイストなどに応じた微調整を行い、よりその国のマーケットや法律などにマッチングさせたマニュアルやガイドブックを作るのは、単なる翻訳という作業を超えた「ローカリゼーション」という作業の範疇になってまいります。 このようなローカリゼーション作業のレベルは、多くの IT 製品やソフトウエアなどで、頻繁に要求が出されています。 したがいまして、“In-Country Translator ”である翻訳者が翻訳するということの方が理にかなった方法であるといえることになります。
逆に、アメリカ国内の選挙や税金などの公布や告知についての州政府や郡(カウンティ)役所からの文書の翻訳(和訳)では、アメリカの社会制度などに精通していることが翻訳者の要件として重要となるため、日本にいらっしゃる“ In-Country Translator ”の方では、その要件を満たすことは難しいことが予想されます。 もちろんアメリカ生活を長く経験したことがあり、アメリカの社会制度についても見識のある翻訳者の方であれば、日本に住んでいても、そのような心配は無用なことであると思われます。 しかしそのような方の絶対数は、きわめて限られるということだけは確かであると言えましょう。
弊社のクライアントから翻訳依頼を受け取って、最も適切な翻訳者に翻訳を依頼するのは弊社の中では、プロジェクト・マネージャー( PM )がその責任者です。 日本にいらっしゃる“In-Country Translator ”の方を起用するのがよいのか、それともアメリカ国内の翻訳者に依頼を出すのがよいのか、その判断を強いられるのが、PM の重要な仕事となります。 もちろん、その判断は私にも相談があるのですが、私としては、基本的にPM の判断を信頼し、判断がつきかねる場合に親身になって相談に乗るように心掛けています。
“ In-Country Translator ”の方々を使うべきかどうかは、どのような翻訳文書の依頼によるかはよって違ってくるのはもちろんのことなのですが、時差の関係やそれに伴う翻訳の納期も必然的に考慮に入れた判断でなければなりません。 日米間に存在する時差をうまく逆手にとって、翻訳作業をうまくコーディネートすることができれば、それは“In-Country Translator ”にとっても、弊社のクライアントにとっても、より効率的に時間配分ができるということで、お互いのメリットは十分に享受できるのではないかと思います。 これらの判断は、PM の裁量に委ねられるところが大きいので、翻訳業務の成功か否かは、まさにPM と翻訳者との間での効果的なコラボレーションがうまく取り交わされているかどうかにかかっていると言っても過言ではないと考えております。
Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org
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