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2009年6月号

「不況に強い翻訳ビジネス」

私は、5月中旬からテキサス州オースティンにあるハイアット・リージェンシー・ホテルで開かれました第7回ALC Annual Conferenceに参加いたしました。 ALCというのは、Association of Language Companyの略で、アメリカにある翻訳会社の業界団体です。 メンバー会員企業数は、120社強といったところで、カンファレンスも100名強の参加者の比較的小さな所帯です。 私は、このカンファレンスには、7回のうちで参加するのが、これで4回目の参加でした。 第1回目に行われた地元ポートランドでのカンファレンス参加からほぼ1年おきで、参加していることになります。 毎年参加したいのはやまやまであるのですが、その年のビジネスの状況やスケジュールの調整などで今までのところなぜか1年おきごとの参加となっています。

今年に入って、アメリカで開かれるトレードショーやカンファレンスへの参加者数は、昨年比で35%に減っているという数字が出ているそうですが、このALCカンファレンスは、昨年サンフランシスコで行われたときとほぼ同数の参加者があったということで、景気後退の影響と云うのは感じさせません。 しかしヨーロッパや南米、そしてアジアからの海外参加者数は、かなり減少していました。 海外の翻訳会社は、アメリカにある翻訳会社よりも景気後退の影響を相当受けていることが感じられます。 特にヨーロッパからの参加者は今までのカンファレンスと比較してみますと確かに激減しているようでした。 カンファレンスの中では、いつもながらにいくつかの大変興味深いプレゼンテーションがありましたが、ACLメンバーに毎年行っている2008年度の企業アンケート調査の結果発表が特に私の関心を引きましたので、皆様にもシェアさせていただきます。

この企業アンケート調査は、昨年10月に行われたもので、メンバー企業のうち、83社が調査に参加したということで、調査に参加した企業数としては、今までの中でもっとも大きい母体数となっています。 それは、ALCにある委員会のひとつで企業アンケート調査を担当した、ランディ・モーガンという人の並々ならに熱意と努力の賜物であると云うことが言えます。 もちろん、このアンケート調査のプレゼン発表者は、ランディ自身でした。 2008年の調査で最も特筆すべきことは、1社あたりの年間平均売上高が前年(2007年)比で18%も伸びているという結果です。 ちなみに2007年の1社平均売上高は、$2.8ミリオンであったのに対して、2008年は、$3.3ミリオンに上昇しています。 さらに1社あたりの平均従業員数も2007年の13名から2008年は、24名へと大幅に増えています。

このような数字を見せられれば、リーマン・ショックで始まった世界的な金融危機で幕を閉じた2008年においてさえも、アメリカにある翻訳会社は、信じられないほどの高成長を謳歌しているといえます。 つまり、翻訳業界は、リセッション・プルーフ(景気後退には巻き込まれない)業界なのだと発表者のランディは高らかに宣言をしています。 ただし、リセッションの影がまったくなかったわけではなく、翻訳会社の粗利益率、ワード辺りの単価、従業員一人当たりの売上げ額といった数字に関しては、2007年よりも見劣りのする結果となっていました。 それにしてもなぜ、ALCメンバーの翻訳会社は、このような高成長をこの景気後退期においても持続することができたのでしょうか。

翻訳分野でいえば、3つの分野が高成長のエンジン・ドライバーになっています。 3つの分野の成長の高い順に並べてみると、メディカル、政府機関、そしてリーガルだという結果となります。 つまりこれら3つの分野に主力をおいている翻訳会社は、高い成長をいまだに持続できていると云うことが言えます。 そしてさらに言えば、これら3つの分野のほとんどは、アメリカ国内における内需からきているものだと云うことが出来ます。 もちろん、メディカル関係では、国際的な大手医薬品メーカーや医療装置あるいはデバイスメーカーがアメリカには何社もありますので、もちろんそれら企業のグローバル化に伴う翻訳のニーズもあるのでしょうが、アメリカ国内の高度化し複雑化する医療制度や医療保険などからくる翻訳や通訳にニーズが非常に手堅くあると考えられます。 政府関係やリーガルについても国際間の調停や政府間交渉から発生する翻訳ニースであるというよりは、アメリカ国内の非英語ネイティブの人々向けのサービスから来ている翻訳ではないかと思われるのです。

このようにアメリカ国内には、まだまだ高成長の余地が相当に残っている翻訳・通訳需要というものがあり、そこにサービスを提供している翻訳会社が高成長の果実を享受しているという図式があることを今回のこのアンケート調査結果からうかがい知ることが出来ました。 それらのアメリカ国内需要とは、直節関係のないサービスを提供している翻訳会社は、成長分野の果実にあずかることは出来ませんので、世の中の不況に真っ只中におかれて、苦戦を強いられるという構図もまた明確に見えてくるわけなのです。 残念ながら、アメリカ国内においては、日本語翻訳の内需というものは、ほとんど存在しませんので、日本語中心の翻訳会社は、やはり世間一般の荒波をもろにかぶってしまうことになります。 アメリカの外国語翻訳市場の8割は、恐らくスペイン語だと思われますが、スペイン語圏の人口ほどではないにしても、中国人やインド人もアメリカには相当数の人口構成があるはずなのですが、中国語やヒンドゥー語などの内需というものは、今のところはほとんど起こってはいません。

最後にランディの発表は、従業員数が平均を下回る、つまり24名以下の翻訳会社では、多様化したサービスが特徴であり、従業員数が平均を上回る企業では、ニッチ分野における専門性を生かしてその分野に経営資源、つまりコア・コンピタンシーを注ぎ込んでいるという傾向があるというような指摘も今回の調査から浮き彫りにしてくれました。 この傾向は、今後の翻訳会社を経営していく上で、経営者にとっては示唆に富んだ現実的な方向性になるのではないかと思いました。 やはりテキサスのオースティンまで遠路はるばるお金と時間とをかけて出かけてみた甲斐のあった2年ぶりのカンファレンス体験となりました。


Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
TOIN USA Inc.
kenfsakai@pacificdreams.org
ken-sakai@to-in.co.jp


   

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