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2009年4月号

貧困のない世界を創る
原題: Creating A World without Poverty

ムハマド・ユヌス  著    猪熊 弘子  訳
早川書房・2008年10月24日刊・382ページ
         

本書は、2006年のノーベル平和賞を受賞したバングラデシュにあるグラミン銀行総裁であり、社会企業家であるムハマド・ユヌス氏が執筆した自身の活動と新しい未来の資本主義の可能性に対する信念とを祖国の貧困になぞえて書き起こした氏の自伝的な書籍です。 本書を読んでみますといくつかのキーワードがあることに気付きます。 それらは、マイクロ・クレジット、ソーシャル・ビジネス、そしてグラミン銀行などではないかと思います。

まずマイクロ・クレジットについてですが、これは、著者が1970年代から始めた、バングラデシュにある寒村のひとつ、ジョブラ村で働くスフィアという貧しい女性に対して、地元の金貸しから搾取を受けている窮状を知り、わずかなお金があるだけで、彼女らを貧困という窮状から救い出すことができるということを身を持って知った経験があったからでした。 その出来事を通じて、貧しい人々は融資するに値しないと信じられていた銀行の常識や既存のルールを変えることこそが、貧困問題解決の第一歩になるということを確信したユヌス氏は、貧しい村々に住む女性を主に対象とした、無担保・小額融資(これがマイクロ・クレジット)のローンを提供するグラミン銀行の設立(1983年)でした。

現在では、グラミン銀行は、バングラデシュ内にある7万8千もの小さな村々で、7百万人以上もの貧しい人々に対してこのマイクロ・クレジットのローンの提供を行い、そのローン返済率は、何と98.6%にも及び、ローンを借りた人々の64%が貧困層から抜け出すことができているという、30年以上にわたる実績が、雄弁にこのグラミン銀行ならびにマイクロ・クレジットの成功と人々からの熱い支持とを物語っています。

ユヌス氏は、アメリカでの経済学博士号を持つ、もともとは大学の経済学教授であった人でもありますので、例えば、貧困の定義などについてもグラミン銀行を通じて、非常に説得力のあるチェックリストを設けています。 これらのはっきりしたポリシーや定義づけがあったからこそ、ローン返済率にも支障をきたすようなことがなく、またこのローンを悪用されたり、悪用することもできなかったのだと思い、ユヌス氏の先見性と論理性に対して、大きな感動と尊敬の念を覚えた次第です。

これらグラミン銀行の成功からさらに新しい事業を派生させて、貧困を打ち破るために、ユヌス氏は雇用機会の創出を作り出す様々な企画を打ち立てています。 その中で最も成功しているのがグラミンフォンで、電話さえ見たことのなかった貧しい人々に、携帯電話をマイクロ・クレジットを使って販売し、電話を購入した女性が、テレフォンレディとなって、村人たちに携帯電話のリースを行うというサービスを始めたわけです。 これら事業は、誰もが当初は成功するはずがないと疑ってかかっていたのですが、いまやソーシャル・ビジネスとして立派に根を張り、貧困問題克服に大きな足跡を残しています。

ユヌス氏が唱えるこれらソーシャル・ビジネスは、政府援助や民間企業のCSR(企業の社会的責任)でもなく、非政府組織(NPO)やボランティア活動でもないのです。 その代わり、投資家への配当はしないので、すべての利益は、貧困を克服するための社会目的に向けた開発と再生産とにまわすことができるわけです。 本書を読むと、貧困のない世界の実現が決して夢物語ではないということを強く感じさせてくれる、新しい未来の資本主義の勃興を予感させる希望の書であるといえるかと思います。

*Pacific Dreams, Inc. では、「貧困のない世界を創る」(早川書房刊:$40.00 Each, Plus Shipping & Handling $6.00)を在庫しておりますので、ご希望の方は、お電話 (503-783-1390) または、E-mailで bookstore@pacificdreams.org まで、ご連絡ください。

 


Ken Sakai
President

kenfsakai@pacificdreams.org

   

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